桃にまつわるエトセトラ
いただきものの、桃をむく。
実家の母が持たせてくれた桃。
親戚が桃農家なので、そこの桃を買ってくれたのだった。
フルーツライン、と地元で呼ばれる通りには、道の両脇に産直のくだもの販売所がぽつりぽつりと軒を連ねる。
看板には「もも」とか「なし」とか「ぶどう」と手書きの文字、その横にかわいらしい絵も描いてある。
なんだかおとぎばなしみたいなお店たち。
子どものころ、お盆参りに母の実家へ行くとき、母はかならず、この親戚のくだもの屋さんで桃やら梨を買っていったものだった。
お盆参り。わたしは白いジョーゼットに黒い水玉を散らした、3段重ねのワンピースを着せてもらってご機嫌だった。くるくるとまわると、スカートもふわふわと広がる、お気に入りのワンピース。
桃屋のおかみさんはひまわりのように明るくて、満面の笑みでわたしたちを迎えてくれた。
お店の外では水道が出しっぱなしになっていて、よく冷えた水の中に、つめたくなっている桃がいくつも浸されていた。
おかみさんはいつもわたしたちにその桃を剥いてくれた。
ちいさな包丁で、魔法のようにするすると剥かれる桃。それは真夏にもかかわらずとってもつめたくて、とびきりおいしかった。
そのお店にはなぜかカップヌードルの自販機があって、わたしはいつも母にねだってカップヌードルを買ってもらうのだった。
プラスチックのちいさなフォークで、きょうだい三人で分け合ってたべた。コカコーラ、と書かれてある真っ赤なベンチに仲良く座って。
桃とカップヌードルを堪能したわたしたちは、それからいとこの家へお盆参りに向かうのだ。
車の中には、うすグリーンのビニール袋にたくさんの桃と梨があまい香りを放っていた。
桃を剥くたびに、あの夏の日々が蘇る。
ミンミン蝉の声、よそゆきのワンピース。
まだ若い母、真っ赤な軽自動車。
わたしの大切な、夏のおもいで。
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