愛すべき手づくり〜ミズ・リリィのひとりごと〜
あれもすてき、こんなのも欲しい、これが手に入ったならどんなに毎日がきらめくかしら…。
でもそのほとんどは、近所のお店で手に入るような物ではなく、あるいは高価だったり、そもそも必要性のあるものではなかったりして、買ってもらうことは叶わなかったの。
そこでわたしはすてきなことを思いつくの、
そこからの行動は早くて、家中のあちこちからがらくたを集めてきたものだわ。
きれいな絵のついたお菓子の箱、包装紙、りぼんやボタン。レースの切れ端…。
ねえ、これ使っていい?って、おばあちゃまのお部屋から手芸箱を借りたりして。
作り方、なんてどこにもないから、わたしの頭の中にあるイメージだけが設計図。
ひたすら無心で、頭の中だけにあるサムシングスイートなものを作り上げること、
それだけに集中するの。
夢中になってこしらえた手作りのものは、あちこちつぎはぎだらけの粗末な仕上がりだったけれど、
それは光り輝いていて、わたしにとっては世界にふたつとない、すてきなたからもの。
自分の仕事にすっかり満足したわたしは、すぐにママンに見せに走ったものだわ。
手づくり品を、貧乏くさいと敬遠する人もたくさんいるのは知っていてよ。
こんなわたしでさえ、自分でこしらえた、家にある数々の手づくりがらくた品を見て、ちょっと恥ずかしいと思う氣持ちも、実はどこかにあったりするし、ちゃんとした高級なものを買った方がいいかしら、と思うこともある。
それはもはや単なる物ではなく、わたしの憧れから生まれた、スピリットのようなものが込められているからよ。
そうそう、この前ね、、近くに住む、わたしよりだいぶ年上のお友達のおうちにお邪魔したのよ。
いつものテーブルがある場所にね、見慣れない、素敵なタイルが敷き詰められたテーブルが、置いてあったの。
『あら、これどうしたの、すてきじゃない!どこで買ったの?』ってわたしが尋ねたらね、
彼は(おじいちゃんなのよ、)とっても嬉しそうな笑顔で、『これ、僕が作ったの。』とニコニコしていうじゃない。わたし、びっくりしてしまったわ。
なんでも、100均でタイルを買ってきて、それをテーブルに両面テープでぺたぺた貼っていっただけなんですって。なるほど、よくよく見れば、すこうし曲がったりしている場所があったり、隙間が空いていたりするのだけれど、いえいえ、そんなの全く気にならないくらいに、それはそれは素敵なテーブルだったのよ。
100円のお店にふらり、立ち寄った時、このタイルに目を奪われてしまったのですって。本当に、100円とは思えないくらいの美しい青で彩色された、モロッコあたりの文化を彷彿とさせるアラベスクの模様よ。彼はそれを何十枚も買って、こうやってテーブルに敷き詰めて完成させたのですって。
わたしはこれに、いたく感動してしまってね。
いくつになっても、人を動かすのは、「こうしたい」「こんなのがあったらすてき」なんていう、欲求が人を突き動かすのだわ、
それには年齢なんて関係ない。この人は、そういう自分の素直な探究心に埃をかぶせることなく、大切にしてきた人なんだ…と思ったの。
歳を重ねて老いがやってくると、体も思うように動かせなくなって、やる気がなくなり気力がなくなり、楽しみは減ってゆく…というふうによく聞くし、たしかにそういう面もあるのかもしれないけれど、いえ、やはりそれが全てではないわ、と思ったわ。
でも多くの人は、大人になるということを自分に課して、自発的な欲求に素直に従うことを抑えてしまうのではないかしら。それを繰り返し、繰り返し続けてゆくと、大人っぽくふるまえる術を身につけられた代償に、その人本来の意欲、嗜好の向き、叶えたい方向性、実現したい自己などを、失ってしまうのではないかしら。
彼は、タイルの魅力にすっかりはまってしまってね。今度、オリジナルの12星座のタイルを作って販売したいと夢を語っていたわ。わたしはそれも本当にすてきなことだと感じたの。
はじめに、〇〇したい、と、蝋燭のちいさな光のような思いが、ぽっ、とうまれる。それが原動力になって、火の光はどんどん大きく燃え盛り、そうして必ず現実に創造されるのだわ。
これはこの世での魔法なの……。
ーわたしも彼とおんなじよ。
だけどそれをひとつでも叶えていきたい、
こんな土地にこんな場所を作りたい、とかね。
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