いつかみた夢
そう、あの時も
しずかなピアノが流れていた
白い壁の、ちいさな部屋
窓から優しい風が入ってきて
レエスのカーテンを
スカートの裾のようにふくらませていた
オルゴールのような響き
ごく小さな音で
そう、あれは
ドビュッシーの、
「夢」…。
わたしはそうっとまぶたを閉じる
涙がじんわり目尻に滲む
わたしは行くしかなかった
年老いた賢者の眼差しが
わたしをじぃっと見つめていた
何も言わずとも
なにもかもわかっていた
お互いに言葉は必要なかった
わたしは行くしかなかった
このやさしい部屋を後にして
旅に出ると知っていた
わたしはもう一度瞼を閉じて
ふぅとひと呼吸する
あなたの眼差しをいつでも忘れない
そう静かに誓う
白い部屋に落ちる影
まぶたに残るのはその残像と
賢者の蒼い裾
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