いつかみた夢

そう、あの時も
しずかなピアノが流れていた
白い壁の、ちいさな部屋
窓から優しい風が入ってきて
レエスのカーテンを
スカートの裾のようにふくらませていた
オルゴールのような響き
ごく小さな音で
そう、あれは
ドビュッシーの、
「夢」…。
わたしはそうっとまぶたを閉じる
涙がじんわり目尻に滲む
わたしは行くしかなかった
年老いた賢者の眼差しが
わたしをじぃっと見つめていた
何も言わずとも
なにもかもわかっていた
お互いに言葉は必要なかった
わたしは行くしかなかった
このやさしい部屋を後にして
旅に出ると知っていた
わたしはもう一度瞼を閉じて
ふぅとひと呼吸する
あなたの眼差しをいつでも忘れない
そう静かに誓う
白い部屋に落ちる影
まぶたに残るのはその残像と
賢者の蒼い裾

kana3histoire

はじめまして、kanaと申します。 『histoire』とは、フランス語で、『物語』という意味があるのですって…。 わたしの人生のものがたり。 日々のこと、思うこと、 ちょっとスピリチュアルな話、 大好きなお絵描きなどをあつめて 宝石箱のような場所にしたいなと おもっています。 あなた様にも、気に入っていただけると 嬉しいです。

0コメント

  • 1000 / 1000