ヒプノセラピー体験談 その3
すっかり元気を取り戻した女の子は、わたしの手を取ると、家の裏手に連れて行ってくれた。
草むらを走って辿り着いたのは、崖の先端。
『ここ、すごく好きな場所なの』
眼下には、言葉にできないほどの圧倒的に素晴らしい景色が広がっていた。
ものすごく高い。
わたしたちがいるところは、やはりとても標高が高いところだったみたい。
先ほども見えていたお城があり、そのさらに下には城下町が広がり市場が賑わっているようだ。
山々の連なり、青々とした森。
あちこちに雲が広がり雨を降らせて、いたるところで虹が生まれていた。
大きな鳥たちが群れをなして飛び、長い肢体をくねらせて龍までも泳いでいる。こちらからも、あちらからも。まるでそこにいるのが当然の如く、我が物顔で悠々と泳いでいる。
わたしはこの情景に息を呑むほどに驚き感動し、慌ててひんやりとした清浄な空気を胸いっぱいに吸い込む。
この景色、、、、
わたしは、はた、と気づく。
少し前に、気まぐれに描いたクレヨン画に、酷似しているということに。
拙い絵だが、確かにこの景色を表したくて描いたのだ、自分でも自覚のないままに…。
わたしはあまり動いてない頭(顕在意識?)でそんなことを思い、それをとても不思議だと感じる一方で、至極当然のことのようにも感じていた。
風景にぼうっと見とれていると、龍に紛れて、少し様子が違う生きものが飛んできた。
龍は鱗を煌めかせて飛んでいるのだが、その生きものは真っ白いふわふわの毛をなびかせながらこっちに向かってくる。その顔はまるで犬みたい。
『ファルコンだ!』
そう、それは、ネバーエンディングストーリーに出てくる、あの有名なファルコンだったのだ。
わたしは思わず笑ってしまう。
この時、わたしはこんなふうに感じていた。
わたしの顕在意識?が作り上げた空想の世界の産物が、こんな風な形で現れてきたの?
幼い頃に見た、あの素晴らしい映画の世界の生きもの。幼少期にインストールされたものの支配力の強さ。わたしはずっとこの世界を大切に持っていたの?
あるいは、、
ここはわたしの潜在意識であるけれども、ここ自体が独立した、ある意味現実に存在しているもう一つの次元、世界で、ファルコンも実際に存在していた。
ネバーエンディングストーリーは、そこの次元に作者がアクセスして取ってきた?
そして、こうして今わたしもここにアクセスしてこの世界を見ている。
おそらく後者のようだ、と感じる。だって、ファルコンを目にした時、わたしはこう思ったのだ。
『ファルコンって、本当にいたんだ!』って。
この生きものは(ある意味)本当に存在しているし、もちろんこの世界も然り。
わたしは今、その世界におじゃまして、見せてもらっている。
おそらく、眠っている間や瞑想中、絵を描いているときなどに、訪れたりもしているのだろう。
でも顕在意識では認知されていないから、わからなかったり忘れてしまったりしているだけなのだ。
ヒプノセラピーは、こんな風に、顕在意識を保ったまま、深いところまで潜っていって、普段忘れてしまうような世界をリアルに見せてもらえるのだ、と感じた。
こんな風なことをぼんやりと感じ取ってからは、すっかりこの状態にも慣れてきて、わたしの頭の中で展開されてゆく世界に、自信を持って心ゆくまで委ねることができるようになってきた。
とても、楽しくなってきたのだった。
さて、こちらに優雅にやってきたファルコン。
わたしと女の子の前に滑るように降りてきた。
でかい!!顔めちゃくちゃでかい。大きなきらきらのお目目。もふもふの毛並み。大きいけど、怖くない。とてもあたたかくて優しい波動を感じる。
『背中に乗せてくれるって』
女の子もたまに乗せてもらっているらしい。
わたしはこわごわ、でも期待に胸を膨らませて、女の子と一緒にファルコンの背中に乗った。
ふわふわの毛並みが気持ちいい。
音もなくふわりと浮きあがり、ゆっくりと降下してゆく。
さっきまで遠くに見えていた雲や雨や虹が、目の前に迫ってくる。きらきらの雨の粒。虹の中を通り抜け、川面すれすれに飛んでゆくファルコン。光がきらめき、水がわたしのほおを濡らす。きゃあ、と歓声をあげ、ファルコンはなおわたしたちを喜ばそうと、体を波のようにしならせて景色を縫うように飛んでゆく。。。
しばらく空の旅を堪能した後、いつしかファルコンはスピードを緩め、森の中へと入って行った。どうやらここが目的地のようだ。
そのまま低空飛行で少し飛んでゆくと、湿地帯のような場所が現れる。
ファルコンはやわらかい草の上にわたしたちを降ろしてくれる。
むせかえるようなハーブの香り。足元は苔むしていて水分をたっぷり含んでいる。
前方を見ると、光の玉がたくさん飛んでおり、早いものやゆっくりなもの、それぞれ思うさま縦横無尽に動き、あたりを煌めかせている。
どうやらここは妖精の住処のようだ。
シダ植物やツタなどが群生しており、水辺がある。上を見上げると、背の高い木々が、透かし模様のように水面に影を作っている。とても美しいところだ。
わたしはここも、見覚えがあることに気づく。
わたしは『魔女のおはなし』というのを書いているのだが、そこに出てくる妖精の住処と似ているのだった。
ああ、わたしはここからあのおはなしの世界を獲ってきていたのだ、と納得する。
そんなことを考えていると、ひときわ大きな光の塊がこちらに飛んできた。
ティンカーベルのような大きさの妖精。すごく高速で振動してチカチカと光っている。
全部が輝いているので、眩しくて表情などはよく見えない。テレパシー?みたいなもので、こんな風に伝えてきた。
『書いてくれて(描いてくれて)ありがとう』
わたしは嬉しくなる。わたしが書いた物語、描いた妖精さん。やっぱりここから採ってきたのだ。
そしてそのことを、妖精さんは感謝してくれているなんて・・・。
どうやら、この世界と現実の世界を橋渡ししてくれるということが、ありがたい?みたい。
今は、あまりにも、かけ離れてしまっているから。
自分たちのことを書いてもらって、人間に自分たちのことを感じてもらえるのは、嬉しいことのようだった。
考えてみれば、わたしたちもそうだ。自分のことを誰かが素敵に表現してくれたらそれはとっても嬉しいことだもの。
そんなやりとりをテレパシーを使って交流し、今度妖精さんは水辺の奥の洞穴を案内してくれると言った。
見ると、水辺の奥に、ツタがカーテンのように下がっている洞穴が見える。
足首あたりまで水に浸かりながら、妖精さんの後についてパシャパシャと歩いて移動する。
洞穴の入り口は、鬱蒼とした茂みになっていて、よく見ないと洞穴があるということがわからないようになっている。
カーテンを開けるように蔦を手で触ると、きらきら。。シャラシャラ。。。と、ツタから鈴の音のような音が鳴った。
まるでウインドベルみたい。
ガラスのような音?というか音がきらきらしている。洞穴の中に、その音色が響き渡り、とても幻想的だった。
薄暗い洞穴の中は、湿地帯とは別の世界が展開されていた。。。
続きます。
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